技術資料
UPS,インバータ,整流装置,高圧電源など
電力スイッチング回路の近傍で冷却ファンを使用する時の注意(電食の防止)
大電力のスイッチング回路や高電圧スイッチング回路の近傍にファンを配置した際の同回路から発生する強力な電磁ノイズ(電磁誘導)の影響や,ファン電源線を経由して加わる高周波ノイズの影響で,ファンの回転軸のベアリングに誘導電流が流れる場合があります。電流が流れると,ベアリングの表面の油膜が破壊され,ベアリングおよび ベアリングの滑走面に損傷が生じます。この現象を「ファンの電食」と言います。電食が生ずるとファンの回転が滑らかでなくなり,回転音に異音がともないファンの寿命も短くなります。最近,この現象が目立つ理由は,高密度化実装にともなってスイッチング回路とファンの間隔が近くなったこと,スイッチング周波数が高くなり,より誘導しやすくなったことが考えられます。低い電圧で動作する情報・通信機器などでは電磁ノイズが小さいためファンの電食は発生しません。
インバータ制御装置など,電磁ノイズが発生する部品の近傍に電食対策をしていない ファンを設置した場合に発生することが確認されております。
No. | 用途 | 異常音発生までの期間 |
1 | スイッチング電源・整流器 | 6ヶ月~ 2年 |
2 | UPS | 6ヶ月~ 2年 |
3 | 汎用インバータ | 1年~ 1.5年 |
4 | 空気清浄器 | 2 ~ 3ヶ月 |
5 | 液晶ディスプレイ用インバータ | 6ヶ月~ |
下図は,ファンに誘起される電磁ノイズのレベルとノイズ源からの距離の関係を示します。
電食の発生 パターン1
- 1. スイッチング回路から発生する高周波ノイズ(電界磁界)によってファンへ高周波)電気の帯電が生じます。
- 2. 帯電した高周波電気によりファンのベアリングを経由する電流が流れます。
- 3. 電流でベアリング表面の油膜が破れ,ベアリングが磨耗(電食)します。
- 4. この症状はスイッチング回路を高速・高密度化した装置で発生しやすい症状です。
- 5. 対策1:ファンの内側へシールド板※1を取り付けてください(風を妨げないもの)。
- 6. 対策2:セラミックベアリングのファンを使用してください。
電食の発生 パターン2
- 1. 回路基板から高周波がファン電源ラインに重畳してファン内部へ流れます。
- 2. 流れ込んだ高周波電流がベアリングを通過して流れます。
- 3. ベアリング表面の油膜が破れ,ベアリングが磨耗(電食)します。
- 4. 対策1:ファン電源端子a ~ b間,および,端子a ~ e間,b ~ e間の高周波成分を取り除く,もしくは,ファン電源ラインへフィルタ※2を挿入してください。
- 5. 対策2:セラミックベアリングのファンを使用してください。
- 6. ファン電源ラインへの誘導を少なくするために配線はツイストしてください。
※1 シールド金属板 電磁シールド金具として当社では「EMCガード」を用意しています。
一般的なフィンガーガードをファンの内側へ取り付けることでも一定のシールド効果があります。いずれも,筐体への接地が必要です。
※2 フィルタ 高周波がab両線へ同相で重畳している場合はコモンモードフィルタを,同相でない場合はノーマルモードフィルタを挿入してください。
- ・装置の設計時にファンの位置を電磁ノイズ源から離してください。
- ・一般的な冷却ファンに「EMCガード」を取り付けてください。輻射による電磁ノイズに対して効果が期待できます。
- ・ファン電源として,ノイズの重畳していない回路から配線してください。
- ・強力な電磁ノイズ(電磁誘導)およびファン電源ラインからの伝導ノイズに対しては,セラミックベアリングを使用した「防電食ファン」を推奨します。電磁ノイズが発生する環境下でも,軸受(ベアリング)に「電食」が発生しない冷却ファンです。軸受(ボールベアリング)のボール材質に,絶縁素材であるセラミックを採用することにより,電磁ノイズによる軸受電食の発生を抑えます。
■構造図
ご注意
防電食ファンは,軸受の電食発生を防ぐように設計されていますが,強力な電磁ノイズの環境下でのファンの正常動作を保証するものではありません。
ノイズによるファンへの影響(誤動作など)の度合については,あらかじめ十分な検証をお願いいたします。
最終更新日:2024年9月